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~九州工業大学 小出研究室 編~
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GWを間近に控えた4月末、博多駅からJR福北ゆたか線に乗って1時間弱、九州工業大学の飯塚キャンパスにある情報工学部 知能情報工学科の小出研究室(以下、小出研)を訪問した。小出研究室は、3Dスケジュール管理ツールCosmo Scheduler D(コスモ・スケジューラ・ディ、以下CSD)を開発したことで有名だ。

これは、Javaを活用した3Dデスクトップ環境LG3D(Looking Glass 3D)で動作するスケジュール管理ツールである。
今回は、小出 洋准教授らに、このCSDの開発動向と、最新の研究動向を伺った。

LG3Dは、サンのエンジニアが開発しているオープンソースの3Dデスクトップ環境である。デスクトップを完全に3D化するのではなく、既存のウィンドウを活用しつつ、ウィンドウの背面を利用可能にしたり、ウィンドウを傾けたりといった表現を可能にしている。試してみたいという方は、このあとのクイックスタートを参照して欲しい。動作環境としては、Linux・Solaris・Windows XPに対応しているほか、ライブCD版もある。

LG3Dは、2次元GUIと3次元GUIの中間、いわば2.5次元GUIとも言える存在だ。2006年12月にバージョン1.0がリリースされた。なお、LG3Dの誕生については、Sun Enterprise News「真に使いやすいデスクトップ環境を求めて:Project Looking Glass 誕生物語」が詳しい。


今回取り上げるCosmo Scheduler D(CSD)は、このLG3D用のスケジュール管理アプリケーションである。太陽系を模した独特の画面を持っており、各予定を惑星として表示する。スケジュールを円軌道として立体的に表示するため、近くの予定を大きく、遠くの予定を小さく表示することで、予定の把握が容易になる。また、スケジュールをらせん型に表示することで、繰り返しの多いスケジュールを立体的に把握することが可能になる。

なお、CSDの基本的な操作は、日経ITPro Java技術最前線「一目でわかるProject Looking Glass」第2回が参考になる。また、CSDをデモモードで起動して、地球を周回する衛星をダブルクリックすると、チュートリアル(英語)が表示される。


※LG3D&Cosmo Scheduler D クイックスタート

LG3Dは、手持ちのパソコンで簡単に動作させることができる。

LG3Dを実行するための推奨環境は下記の通りである。

  • CPU=1.4GHz以上
  • RAM=512MB、
  • OpenGLバージョン1.3以降をサポートしたグラフィックカードを持つこと

Solaris、Linuxで利用する場合、3Dアクセラレーションを有効にするための設定が必要など多少敷居は高い。
WindowsであればCentrino系のノートPCでも動作するのでぜひ試していただきたい。
Windows環境ではLG3Dのフル機能が使えるわけではないが、3Dデスクトップ環境を十分体験することはできる。

LG3D 1.0は下記よりダウンロードできる。
≫ Project Looking Glass Binary Builds(英語)

LG3Dを導入するには

  • Java SE 6以降
  • Java 3D SDK 1.5以降

が必要となるが、LG3D本体及びこれらを1パッケージ化したMega Bundle版が用意されているので、そちらを利用することで簡単に導入することができる。

Cosmo Scheduler D(CSD)は LG3D 1.0に同梱されており、LG3Dを導入すれば、すぐに試すことができる。
CSDを起動するには、左下のランチャーから「Office」→「Cosmo Scheduler D」を選択すればよい。
起動時には、デモモードにするか確認のダイアログが表示される。
LG3Dを終了するには、右下のドクロマークをクリックする。

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Cosmo Scheduler Dを開発した小出研究室では、主に並列分散環境についての様々な研究を行っている。3D GUIは必ずしも専門ではなかったが、前々から小出 洋先生が3D GUIの構想を持っていたことから、学生3名が卒業研究として3D GUI環境の開発に取り組んでいたという。ところが、そこへサンからLG3Dが発表された。そこで、デスクトップ環境の開発から、アプリケーションの開発へ方針を変更した。

『2年前、卒業研究として3D GUIを開発していて、初めてLG3Dの動画を見たときの衝撃は計り知れないものがありました。軽快な動作で半透明やアニメーション効果,さらに動画までも再生できていました。正直、「悔しい・・・」と感じたわけですが、それと同時に私達の考えていたことは間違いではない、とも思いました。』

≫ Cosmo Scheduler D 誕生秘話
九州工業大学情報工学部 小出研究室  薬師寺 浩二、南迫 博和、前田 良史、小出 洋
初出:Software Design 2005年10月号

このとき開発したのが、3D GUIによるスケジュール管理ツールCosmo Scheduler Dである。この開発プロジェクトは、IPAによる2004年度第2回未踏ソフトウェア創造事業に「三次元GUIスタイルの提案とその開発環境の整備」として採択された。

未踏ソフトウェア創造事業は、情報処理推進機構(IPA)が行っているIT人材の発掘・育成事業である。数ヶ月という短期間で、オリジナリティあふれるソフトウェアの開発などを支援している。

『Cosmo Scheduler Dのソースコードは、約2万3000行程度です。これを、未踏事業の8ヶ月ほどで書きました。これは、修士の学生たちが書くコードの量としては、多い方だと思います。当時はLG3Dの情報が少なくて、いろいろテストコードを書いたりして、機能と使い方を調べるところからやりました。これにかなり時間を取られました。』(小出)

こうして開発されたCSDは、大きな反響を得た。その最大のものが、サンフランシスコで開催されたJavaの世界的なイベント2005 JavaOne Conferenceで、Duke Choice Awardを受賞したことだろう。さらに、2004年度第2回未踏ソフトウェア創造事業では、プロジェクトの代表者だった薬師寺 浩二さん(九州工業大学大学院情報工学研究科博士前期1年、当時)が、スーパークリエイターとして認定された。また、学長表彰、平成17年度明専会技術賞 最優秀賞も受賞した。

なお、サンでは、2005年12月にEducationプログラムの一環として、Ultra20x10台を寄付している。

CSDの開発は、これだけでは終わらなかった。2005年には、IPAの2005年度下期 未踏ソフトウェア創造事業に「履歴の高度利用のための3次元GUIベースの情報環境の開発」として再び採択されたのだ。これは、CSDと同じく2004年度第2回未踏ソフトウェア創造事業で開発された「ねころがー」という作業記録システムをCSDと組み合わせるプロジェクトだ。

ねころがー」は、中京大学大学院 情報科学研究科 博士過程の近藤 秀樹さんが開発した、いわゆる「ライフログ」ツールである。「ねころがー」は、コンピュータを使った作業のほとんど全て記録するシステムである。キーボードからの入力や、スクリーンショット・クリップボードの内容などを適切なタイミングで記録していくことで、過去に行った作業を再現しやすくする。

このようなツールは、大量の作業記録を蓄えることから、目的とするデータを検索するのが難しくなる。そこで、3D GUIを備えたCSDと組み合わせることで、検索を容易にすることを狙ったのだ。さらに、過去の記録から未来のスケジュールを立てやすくなるといった効果もあるという。

この新しいCSDの開発により、小出先生と“ねころがー”の開発者である近藤さんも「天才プログラマー/スーパークリエータ」として認定された。

『未踏で一番大変だったことは、この学校の電気なんです。飯塚市は、もともと炭坑の街なんですが、そのせいなのか送電線が1本しか来ていません。だから、停電するとなかなか回復しないんです。少し離れた体育館に落ちても、安全装置が働いてしまいます。

8月ごろだと、夕立とか雷が多いので、けっこう大変なことになるんですが、未踏事業の発表がちょうど8月にありまして・・・。発表の前日にデモの準備をしていたときは、10分に1回くらい瞬停していました。これが大変で、結局ノートPCに入れて自宅で作業しました。でも、それまで作業に使っていたUltra20のSolarisのファイルシステムは、ビクともしませんでした。

現在のところCSDは、実用レベルに達していません。未踏事業ではデモを重視していましたし、スケジューラーとして当然入るべき機能が入っていません。また、動作ももっと軽快にする必要があります。今後は、これらの課題をクリアしていきたいと考えています。』(小出)

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小出研では、3D GUIのほかに並列分散処理の研究を行っている。特に、ストリーミングデータをターゲットにしているという。研究室には、Mac miniやAMD64 PCによるグリッドマシンを設置している。

『並列分散処理を早くしたり、リアルタイム処理を行う場合、そのパフォーマンスにネットワーク通信が大きな影響を与えます。そこで、計算に適した経路を選ぶという研究を行っています。画像ファイルのようにデータサイズが大きいときには、バンド幅を優先し、制御データのようにデータサイズが小さいときには、遅延時間を優先します。このような方式の効果をAMD64を8台使ったグリッドシステムなどで測定しています。』(重黒木 泰さん、博士前期1年)


『ネットワークの経路を選択する具体的なアプリケーションとして、並列分散処理によるセキュリティ監視ツールを開発しています。ネットワークのパケットをクラスタPCによりリアルタイムに監視し、セキュリティの影響を知らせます。ウィルスチェックなどの判定は、けっこう処理が重いですし、市販のツールはFPGAなどの専用ハードウェアを使うため、高価格になっています。これをローコストに実現するため、並列分散処理を行います。

100Mbpsでは100%近くパケットを捉えることができますが、1Gbpsでは50%程度になってしまいます。この性能を改善することが、次の課題です。』
(浦谷 芳幸さん、博士前期1年)


『私は、この小出研ができた年から、ここにいます。最初の年は、新しい研究室なので、どんなことをやるところなのか、学生にもよく分かりませんでしたが、2年目からはかなりの人気になりました。最近でも、上位3位くらいに入っています。コードも書くし、マシンの世話もしないといけませんが、総合力を付けるにはいいところだと思います。』(吉永 一美さん、博士後期2年)


『このほかに、九州工業大学の知能情報工学科としても、取り組んでいる教育プログラムがあります。

文部科学省の先導的ITスペシャリスト育成推進プログラムにも採択されたため、いろいろなPBLがおこなわれていて、前期のシステム開発型プロジェクト演習では、修士の学生が数名の班に分かれて、Webアプリの企画・設計・実装というプロセスを実習しています。後期のリアルPBLのひとつでは、Java最新技術による大規模ソフトウェアを構築する予定です。

同じく文部科学省のスーパーサイエンスハイスクールプログラムでは、高校生向けに5時間ほどのセミナーを行いました。最初にCSDとその企画書をサンプルとして見せて、それから自分たちで3Dアプリケーションの企画書を書いて、最後にそれをプレゼンしてもらうという内容でした。短い時間だったので、“最初の仕様設計が重要”ということを感じてもらうこと目標としました。


このとき面白かったプレゼンに、3D家計簿があります。これは、時間軸を家計簿化しようというもので、支出が多くなれば時間軸のハードルが高くなったり、収入のところではお金が落ちているといったアイデアが楽しめました。

LG3Dをはじめとして、3D GUIには、まだまだできることがたくさんあります。学生とディスカッションしていると、面白いアイデアが飛び出すことがあります。それをパクるとかではなく、いっしょに形にしていけたら良いなと思っています。』(小出)


最後に、小出先生に情報技術とその教育について、お考えを伺った。

『これまでの10年と、次の10年で、コンピュータはどっちがすごくなるか。

こんな質問を学生にすると、多くの学生は、もう進歩は止まっていると答えます。でも、明らかに次の10年のほうが、とんでもないことが起こると思います。これまでの10年もすごかったけど、次の10年はもっとすごい。そのことをもっと伝えたいと考えていますし、それを学生に伝えるのが教育者の役割だと思います。

私も、自分でコードを書きたいほうです。動いているプログラムは、どうなっているか全部分かっているし、カワイイですよね。授業だけだと、教える方も書くコードは多くありません。そこで、コードを書く時間を得るために、未踏に応募しました。

プログラミングが好きで、九州方面でプログラムを作りたい人は、ぜひここを目指してください。』(小出)

小出研究室

Cosmo Scheduler D

Project Looking Glass/LG3D


※著者のタイトル、所属等は、執筆当時のものであり、現在と異なる場合があります。
また、日本サン・ユーザ・グループは2007年6月をもって休会しております。

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