|
| Japan Worldwide |
2007年5月の“Open House”で紹介されたプロジェクトの一つに、“Project Sedna”がある。Project SunSPOTといった精彩を放つ他のプロジェクトに比べて非常に地味なこのプロジェクト、しかし、これが実現すればデータセンターの未来を変えると言われる、サンの期待の超重要な開発ミッションなのだ。 ハンズ・エバリーは、この“Project Sedna”のリーダーである。太陽から最も遠いとされる惑星Sedna(セドナ)の名にちなんだ、始まったばかりのこのプロジェクトでは、「次世代のデータセンター・スイッチ」の開発とプロトタイプの作成を12名の精鋭メンバーで行っている。 データセンターの将来を変える、“接触通信”
Sednaプロジェクトが目指すのは、サン・ラボで開発中の新しい通信技術、“接触通信(Proximity Communication)”をベースに、何千もの計算機ノード、毎秒テラ・ビットの何十倍もの帯域にスケールできる、未来のデータセンター・インターコネクトのためのテクノロジである。 現在、チップ(プロセッサ)同士の接続、つまり信号伝送にはボンディング・ワイヤ等を使っているが、接触通信では、これを取り払い、複数のチップ同士を直接接触させて信号を伝達させるという技術である。 この技術を搭載したLSIを使ったスイッチが完成すれば、将来は、現行のネットワークやストレージアーキテクチャを単一のネットワーキング・インフラに収束し、データセンターのリソースを仮想化し、さらに柔軟なインフラの構築が可能になる。グリッドやユーティリティ・コンピューティングといったこれからの新しいコンピューティング・モデルの礎ともなる期待の技術である。言ってみれば、データセンターの運用方法を根本から変えるスイッチなのだ。 ハンズは、典型的な研究者タイプの物静かな男である。最先端の取り組みを興奮気味に他人にアピールするようなことはけしてしない。極めて淡々と穏やかに語る。 『ぼくは大げさな表現は嫌いだ。ぼくたちは、ただ、今までのものよりもシンプルで、効率がいい新しいスイッチに黙々と取り組んでいるだけなんだよ。』 「できないことは約束できない」 10テラビット・スイッチなんてムリムリ!
ハンズは、2年前に彼の上司に『接触通信をベースにしたスイッチの開発に取り組んでみてよ。』と言われて、このプロジェクトを開始した。 「上司の目標は、毎秒10テラビットのスイッチだったんだ。」とハンズは回想する。 「見方によっては、彼は頼む相手を間違えたとも言えるんだ。ぼくは非常に慎重で、できないことは約束しない性格だからね。でも、彼は10テラビットのスイッチについて何度も話したが、私はそのたびに『無理です。2年以内で完成できるのは、小型の4ポートのスイッチで、帯域幅は関心を引くようなものではないですよ。』と答えたんだ。」 しかし、ハンズの食指を動かしたのが、接触通信だった。先にもふれたが、これはチップ間でワイヤをつながずに驚くべき速度でデータを転送する技術だ。以前からサンではこの接触通信技術を開発してきた。アメリカ連邦政府機関DARPA向けの次世代スーパーコンピュータの開発プロジェクトに対しても、サンはこの接触技術を多用したシステムを提案したが、残念ながらDARPAはサンの技術提案の採用を見送った。 しかし、サンは、この重要な技術の開発を続ける決断をした。この接触通信が実用化すれば、現在の半導体製造プロセス技術の行き詰まりを打開し、半導体業界に新たな進化をもたらすことにつながると考えたからだ。 「ぼくは自分のことをシステム系の人間だと思っていて、常にイネーブリング・テクノロジ(実現技術)を探しているんだ。接触通信はものごとを行う方法を考え直すきっかけとなるイネーブリング・テクノロジなんだ。」 「このような新しい技術に接したら、もう従来の方法でものごとを行うことはできない。その技術をよく検討し、チャンスを見極める必要があるんだよ。」 ただ、ほかの新しい技術と同じように、チームが越えなければならない技術的なハードルがたくさんあるはずだ。だからハンズはこのプロジェクトを最初は小さく始めることにした。 「通常はこのような技術を使用してこの規模では開発しないものだが、接触通信を使用してより規模の大きいシステムを開発しようとしたのは初めてであり、性能以外の目標も必要だった」と彼は言う。 そうして生まれた最初のメカニカル・サンプルは、ハンズが上司に約束したとおり、がっかりするような帯域幅の小型の4ポートのスイッチだった。 仮想化には、データ転送の高速化が必須課題 新しい設計の注目すべき点は、よりよい方法が可能であることを証明しているところである。 無数のコンピュータを抱える最近のデータセンターでは、相互接続が重要な役割を果たしている。 「しかし、抽象化の層を追加するには、追加の帯域幅が必要になる。突然、別のノードのメモリを使用することになった場合、データを転送する必要が生じる」とハンズは指摘する。 「私たちは計算ばかり重視している。私たちは、コンピューティングには、実際の計算以上のものがあることは理解しているが、データの移動が、データの計算よりもおそらく重要であることはまだ理解されていない。みんなが注目する問題は常にプロセッサとそのアーキテクチャだ。しかし、システム全体を見てみると、これは大事なことなのだが、最近では、実際の計算よりも、データを移動することのほうが重要であることがわかるはずだ。」 ここで、新しいスイッチの設計の出番である。 接触通信で、帯域幅2ケタ増加を達成!
彼自身のチームの力だけではなく、ロバート・ドロストとサン・ラボのVLSIグループ、またカリフォルニア州サンディエゴにあるサンの物理科学センター(Physical Science Center)の助けを借りて、ハンズは詳細な2年計画どおりに開発を進め、今メカニカル・サンプルを手にしている。 複雑な複数ステージ、階層構造の設計では、様々なスイッチング要素間のパスを実際に設定する必要があり、非現実的な調整が必要であるのに対して、新しい設計はシンプルなシングルステージのスイッチになっている。 「接触通信によって、入出力帯域幅が2桁ほど増加した。だから、階層構造のトポロジを使用する必要がないんだ。これは基本的にフラットなスイッチとしてとらえることができる。」ハンズは言う。 簡単に言えば、新しい設計はよりクリーンで、組み立てと管理が簡単で、速度が大幅に向上している。 「しかもデータ保証が可能なんだ。最近のトラフィックを考えると、リアルタイムの制約がある場合がある。例えば、ストリーミング・ビデオだ。だから、帯域幅を保証してデータを転送する必要がある。このようなサービス・レベルは、複数ステージのスイッチよりも、このようなスイッチのほうが簡単に実現できるんだ。」 「現在、最大のシングルステージのスイッチには約24個のポートがある。256ポートのスイッチを開発し、1000ポートまで拡張するのは簡単だよ。」 これは、大げさな表現を好まず、できないことは約束しない男の言葉である。 サンは、2005年に、近い将来、接触通信を使ってコンピュータのプロセッサ間を高速に接続する技術を登場させることを予告した。予告通り、2007年のOpen HouseでProject Sednaとして最初のプロトタイプをお披露目した。 Sedna、“太陽から一番遠い惑星”は、今、我々のもうすぐ手の届くところに見えている。
| Sun Fun Times
|
|||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||