|
| Japan Worldwide |
我々のようなASP事業者にとって、導入時のイニシャル・タイムを圧縮しなければ、低コストで高品質なサービスを提供できません。
|
人事サービス・コンサルティング株式会社(HRMSC)は、住友信託銀行、パナソニック、花王などが出資し、2002年に誕生した人事給与関連の業務とシステムをフルアウトソーシングで請け負う企業である。日本では唯一、ドイツのSAP AG社とBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)パートナー契約を締結した企業であり、同社のソリューションをBPOおよびASP方式で顧客に提供している。 「当社の強みは、税や社会保険に関する処理をはじめとするような、どの会社でも共有しうる業務について、システムを作り上げたところにあります。BPO事業として『事務』と『IT』の両方を担う、日本では稀な、画期的な会社だと自負しています」と、HRMSC 代表取締役社長の武谷 啓氏は胸を張る。 HRMSCの顧客企業数は86社であり、ユーザ数は12万人を超えている(2008年9月末時点)ため、そのためのシステムは非常に大規模なものになっていた。 「設立から2008年3月までは、顧客ごとに別のサーバを立ててサービスの提供を行ってきました。しかし、物理的にサーバ数を増やしていくと、管理コストもそれに伴い増大することになります。さらにサーバの老朽化も目立ってきたことから、2006年あたりから新システム導入の検討を開始しました。その際、より効率的なサーバ管理の方法を模索し始めたのです」とHRMSCの次期システム構築グループ グループリーダーの池田 泉氏は振り返る。 おりしもHRMSCで使用していた、SAP R/3、Microsoft Windows 2000 Server、Microsoft SQL Serverのサポート期限も迫っていたことから、ハードウェアだけでなく、システム全体のリニューアルが必要とされていたのである。 低コストで高品質なサービス提供には仮想化技術の採用が不可欠と判断 そこで池田氏をはじめとする同社のスタッフは、米国にある大手ITベンダーの拠点を訪問。各社の製品とともに将来戦略に関するヒアリングを行い、今後導入すべきシステムを検討した。 「ヒアリングを行う中で、メインフレームの世界で使われてきた仮想化技術がUNIXR上でも動作可能となっていることを認識しました。これまでのように物理的にサーバを増やしていくのではなく、1台の大規模サーバを仮想化技術によって運営していく方式とすることが、我々のようなASP事業者にとって最もメリットの高い方式であるという結論に達したのです」(池田氏) 同社の旧システムでは、1社ユーザが増えるとバックアップ等を含め数台の新たなサーバを利用することが通例となっていた。そのため、新しいサーバすべての設定を完了しサービスインするまでには3か月程度の時間が必要であった。 「こうしたイニシャル・タイムはコストを意味します。イニシャル・タイムを圧縮することは、お客様に低コストで高品質なサービスを提供することに直結します。その実現には、仮想化技術が必要だと考えました」(池田氏) しかし、約140台の他社製PCサーバとMicrosoft Windows Serverを使って運営してきたSAPアプリケーションを中心とするシステムは非常に大規模であり、かつ、移行期間の短さを考慮すると、一挙にUNIXに切り替えるのはリスクが大きいということも明らかだった。そこで、NTTデータグループからの提案により、顧客が利用する人事業務のフロントシステム部分として、Sun Fire X4600 M2でのVMware Infrastructure 3仮想化環境でMicrosoft Windows ServerとSAPのアプリケーション動かすことを2007年11月に決定した。 「NTTデータグループの実証・実績に基づく機器提案を評価し、Sunのサーバを導入することにしました」と池田氏は語っている。また、将来的には仮想化環境を他のシステムにも広げていくこと、システムの安定稼働やセキュリティを一層強化していくことに備えるため、他のシステムの一部を Windows環境から、Sun SPARCR Enterprise M9000とSolaris OS環境でのOracleデータベースに移行することもあわせて決定した。 大規模仮想化の情報が少なく自分達で検証を行い進めた移行作業 「実は導入するハードウェアを決定してからが大変でした」と池田氏は苦笑いする。 導入が決定した2007年11月から、新システムの稼動開始となる2008年4月までは、わずか半年しかない。これだけ短期間での新システムへの移行は容易なことではなかった。 しかも、日本ではMicrosoft Windows Server、VMware Infrastructure 3、SAP R/3による仮想化環境の前例がない。情報も少なく、自分達で検証しながら移行作業を進めなければならなかったのである。 システム・インテグレーションを担当したNTTデータ関西の法人ソリューション事業部 第二法人ソリューション担当 課長の森本晋司氏は、移行作業を次のように振り返る。 「移行といっても、対象はサーバだけにとどまりません。つながっているネットワークやストレージなども含めて移行作業を進める必要があります。新システムが4月に稼動するとなると、2008年1月からは移行試験を進め、3月には実稼動を想定した精度の高いテストを行わなければなりません。厳しいスケジュールの中、作業は進められていきました」 |
![]() 人事サービス・コンサルティング株式会社
代表取締役社長 武谷 啓 氏 ![]() 人事サービス・コンサルティング株式会社
次期システム構築グループ グループリーダー 池田 泉 氏 ![]() 株式会社NTTデータ
基盤システム事業本部 仮想化ビジネスプロジェクト シニアコンサルタント 中山 直樹 氏 ![]() 株式会社NTTデータ
基盤システム事業本部 仮想化ビジネスプロジェクト コンサルタント 吉岡 信二 氏 ![]() 株式会社NTTデータ関西
法人ソリューション事業部 第二法人ソリューション担当 課長 森本 晋司 氏 |
テストにあたっては旧システム内にテスト環境を設け、その中でテスト作業を繰り返した。また、NTTデータ先端技術やSunが持っている検証施設も積極的に利用した。
「長期間にわたる技術パートナーであるNTTデータ関西およびNTTデータについては、一度作業を始めたら最後までやり抜いてくれるという信頼感がありました。Sunとは今回初めてのおつきあいでしたが、事前に米国本社に出向き話を聞いて、信頼できるメーカーだという実感がありました。移行作業の技術部分は信頼してお任せするだけですから、そういった面も重視しました。また、短期間で移行しなければならない分、多少コストはかかっても要望があれば可能なかぎり応えることで作業を進めていきました」(池田氏)
実際にHRMSCは、移行のためだけに光回線を6回線も契約するといった、通常では考えられない環境整備も行っている。しかし決して無駄なコストではなかった。「結果的に、スケジュール通りに移行が完了し、当初予定していた初期費用を下回ることができたのです。適切なIT投資ができました」と武谷氏は評価する。
また、NTTデータは今回の仮想化環境構築およびデータセンター移設作業のマネージメントも担当。「NTTデータは技術的な側面での参画のみならずベンダー同士がコラボレーションする際のマネジメント作業を担当しました」とNTTデータの基盤システム事業本部 仮想化ビジネスプロジェクト シニアコンサルタントの中山直樹氏は話す。
ベンダー間のマネジメントとは、システム内にはどのベンダーの責任となるのか切り分けが難しいグレーゾーンが出てくる。このグレーゾーンはどのベンダーの責任となるのかといったことの調整役を同社が担ったのである。このように、技術スタッフとは別に専門の調整役を設けたことで、現場の作業がスムーズに進んでいった。
予定どおりに新システムがカットオーバ 新たなビジネス展開への貢献にも期待
厳しいスケジュールではあったが、予定どおり2008年4月に新システムはカットオーバした。とはいえ、最初の2か月間は多少のトラブルもあった。
NTTデータ関西の森本氏と一緒に移行作業を担当したNTTデータ 基盤システム事業本部 仮想化ビジネスプロジェクトの吉岡信二氏は、「運用には移行作業とは異なる難しさがあります」と指摘する。「実際にシステムを運用する際、ミドルウェア、アプリケーション構成がお客様ごとに異なります。実際に運用が始まって分かる問題もありました」
移行作業と同様に、新システムを運用していく中で起こってくる問題は1つ1つ処理していった。地道にトラブルを解決していくうちに、「3か月目には、ほぼトラブルがない状態となりました」(池田氏)という。
新システムが安定稼動するようになると、旧システムにはなかったメリットが明らかになったと池田氏は話す。
「以前のシステムはハードウェアにまつわるトラブルもたくさんありました。新システムのSun Fire X4600 M2では故障などのトラブルがないので、大きな負担減となっています。さらに、VMware Infrastructure 3の管理機能を利用することで、旧システムで利用していた運用管理システムではできなかったリスク回避が可能になりました。
例えば、毎月、データを採っていくと、特定の日に特定の顧客向けシステムの負荷が高くなることが分かります。そのため、その日は有人監視を行うとか、予めシステム・リソースを高めに配分するなど、トラブルを極力起こさない、トラブルが起こったらカバーできる体制を作った方がよいといった予測を、経験則ではなくデータに基づいてできるようになったのです。必要な日に必要とするリソース(人・物)を配置できるので、運用にメリハリが付けやすくなり、運用コスト削減にもつながったのです」
さらにVMwareの仮想化ならではのメリットとして、サーバのパワー不足が起こった際に、オンデマンドで増強するといった措置が可能となった。物理的にサーバを増やす方法では絶対に不可能だったトラブル回避が可能となったのである。
HRMSCの新システム移行にあたっては、短期間ということもあり、顧客である大手企業の情報システム担当者からは「本当に大丈夫なのか?」と厳しい意見もあったという。
「新システムは本当に大丈夫か?という声に対しては、お客様に出向いて説明を行い、納得していただくよう努めました。実際に新システムが稼動すると、安定していることもあり、そうした声はなくなりました」(池田氏)
今後については、災害対策としてディザスタ・リカバリ対応、Solaris OS環境への移行なども検討している。一方で池田氏は、新システムがビジネス範囲を広げる可能性を持っていると指摘する。
「新システムに対しては、同じような業態の海外事業者からも、『よくここまで踏み込んだ』と驚かれます。仮想化環境を構築したことで、こうした海外事業者との連携も、環境が同じで、国際間ネットワークの問題をクリアすれば、簡単に実施できるようになりました。新システムは、我々のビジネスを日本にとどめず、海外に拡大することも可能としたのです」
仮想化環境を構築し、高い安定性と高い柔軟性をいち早く確保したことにより、他のBPO/ASP事業者に大きくリードしたHRMSC。この積極的な取り組みにより、同社のビジネスは今後も大きく飛躍していくことになりそうだ。
|
|
|
| PDF 758KB |
|
|