導入された主な製品
使いたいときに必要なリソースが使えるグリッド環境では、設計業務を継続しつつハードウェアの入れ替えも可能です。
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日本を代表する情報関連機器メーカーのセイコーエプソン株式会社。同社は、国内市場を常に牽引してきているコンシューマー用インクジェット・プリンターをはじめ、プロジェクターなど情報関連機器を開発・製造する情報関連機器事業、ディスプレイや半導体、水晶デバイスを開発・製造する電子デバイス事業、腕時計や眼鏡レンズ、FA機器を開発・製造する精密機器事業などの事業を行っている。 そうした中で、情報関連機器の設計開発に利用されるITシステムを管轄しているのが、情報画像事業管理統括部 機器情報化推進部である。 「私達の仕事は、いわゆるIT部門にあたりますが、担当しているのは事務系のITではなく、設計開発をはじめとしたエンジニアリングに特化したITインフラの管理です」と、セイコーエプソン 情報画像事業管理統括部 機器情報化推進部 部長の小林稔氏は語る。 「当時は、いわゆる互換機パソコンの開発が全盛期で、内蔵基板などのハードウェア設計に関する需要が急増した時期でした。その需要拡大にともない、それまでの開発環境ではパワー不足となり、サンのワークステーションを導入したのです」(小林氏) 1980年代後半は、現在とは異なり、電子部品の設計における描画やシミュレーションなどを目的に利用するには、パソコンではパワーが足りなかった。また設計に利用されるアプリケーション・ソフトウェアの面でも、「EDA系をはじめ、稼動するアプリケーションの数が最も多かったのもサンでしたから、アプリケーションベンダーから有形無形のサポートも得られましたので、当時、サン製品の導入をしたのは当然の決断だったと思います」と小林氏は話す。 それ以来、設計部門ではサン製ワークステーションを利用してきている。 同社の情報関連機器事業は、プリンター事業、液晶プロジェクターや液晶モニターを開発製造する映像機器事業、パソコンなどを開発しているその他の事業という3つの事業からなる。プリンター事業はさらにコンシューマー用、ビジネス用にわかれており、3事業の4ビジネスユニットで組織されている。同じ事業部内であってもこれらの事業所は半径30キロメートル圏内に分散している。 |
![]() セイコーエプソン株式会社
情報画像事業管理統括部 機器情報化推進部 部長 小林稔 氏 ![]() セイコーエプソン株式会社
情報画像事業管理統括部 機器情報化推進部 主事 高橋一哲 氏 |
当時の開発環境は、これらの3事業でそれぞれ個別に用意されていた。開発環境の規模が大きくなるにつれ、ITインフラ投資やメンテナンスなどでの重複が顕在化するところとなる。2004年、同社はこれらのシステム全体の見直しを行うこととなる。
「設計開発に携わっているエンジニアは約200人。ところが、そのインフラを管理する私達は数人です。少ないスタッフで多数のワークステーションを管理するのは、容易ではありません。開発者の利便性や生産性を下げることなく、管理者の負荷を軽減する必要がありました。また、開発する商品の低価格化が進んでいることを考えると、設計に関する投資コストを抑える必要もあります。
これまでどおりにワークステーションを使い続けるのではなく、もっと投資コストを抑え、生産性を最大にかつ管理コストも最小にする、新しいシステムを必要としていたのです」と、セイコーエプソン 情報画像事業管理統括部 機器情報化推進部 主事の高橋一哲氏は語る。
そうした中で、個人のワークステーションにあった開発環境をサーバーに集約し中央集中管理とすることを決定。それだけでも一定のTCO削減の効果は期待できたが、さらなる効率化のためのチャレンジとして、コンピューティング・リソースのグリッド化へと検討は進んでいった。
そして、グリッド環境の要となる司令塔として、Sun Grid Engineに白羽の矢が立つことになる。
世界中にいるサンユーザーからより多くの技術情報が入手できる
2004年当時、国内で設計部門にSun Grid Engineを導入している事例はほとんどなかったという。
高橋氏は「正直なところ、自分達の環境にSun Grid Engineを導入した際の具体像は想像できない部分もありました」と当時を振り返る。
それにもかかわらず導入を決定したのは、「競合製品も比較検討しましたが、ライセンスが高価でしたし、メンテナンス工数の削減が期待できそうになかったのです。さらに、バッチ的な利用形態ではなく、ジョブをキューイングしリソースを割り当てて実行するという利用形態が必要でしたので、Sun Grid Engineが適していると判断しました。それに、長年、サン製品を使い続けてきましたから、サンというメーカーを信頼していました」と小林氏は指摘する。
小林氏は「サン製品の信頼性」について、技術者ならではの次のような見方もあると話す。
「サン製品を利用している、いわば"サンファン"といえる人たちが世界中に存在しています。ユーザー層も私達のような電子部品の設計開発にとどまらず広く、しかも深く利用しているヘビーユーザーがたくさん存在するのです。こうしたファンがたくさんいるお陰で、サン製品に関する技術情報は、メーカー発以外のものもたくさん集めることができました。
メーカー発信の情報だけでなく、ユーザー発信の情報がたくさんあることで、少人数で多数のマシンをメンテナンスしていかなければならない私達のような技術者にとって、ずいぶんと助けられました。その意味では、サン製品の信頼性は、メーカーとしての信頼性に加え、多くのファンを持っていることからくる信頼性という部分もとても大きいと思います」
使いたいときに使える。コンピューティング・リソースの最適化で、設計の生産性向上に貢献
こうしてセイコーエプソンの情報関連機器事業はSun Grid Engineの導入を決定したわけだが、設計開発のITインフラをグリッド環境にすることによって、さらなる効率化、コスト削減、生産性の向上が達成できると考えた。
「情報関連機器事業は、事業所が半径30キロメートル圏内に分散しています。開発者が個々にワークステーションを自席で利用していた時には、利用されるツールやアプリケーションのバージョンアップ作業だけでも、物理的な手間が大きかったのです。開発環境をサーバーに集約しグリッド化することで、バージョンアップ作業を開発者のマシンごとに行う必要がなくなります。これだけでもメンテナンスの手間は大幅に低減されます」(高橋氏)
もっとも管理コストの削減だけに主眼を置くのであれば、個々にワークステーションを配置するのをやめ、ハードウェアを集約して集中管理するだけでも十分効果はあった。システムをグリッド化する必要はない。
だが、セイコーエプソンは、製品の設計開発業務にはグリッド環境が最適と判断した。その理由はこうだ。
「各事業は繁忙期が異なる場合も多いのです。例えば、同じ"プリンターを設計する"といっても、コンシューマー用とオフィス用では製品の発売時期が異なります。そのため、開発にかかる作業の最盛期も違ってきます。コンシューマー用プリンターを担当する部署では、マシン・パワーが足りないのに、オフィス用プリンターの担当部署ではマシンを利用していない、といった非効率なことが起こっていました。
開発者一人一人にマシンを配置してしまうと、他部署にマシンを貸し出すことは事実上難しい。しかし、設計開発環境をサーバー集中管理に移行しそれらをグリッド環境にすることで、忙しい部署にはコンピューティング・リソースを集中させるといった柔軟な配分方法が可能になると考えました」(高橋氏)
2004年6月から、Sun Grid Engineの導入を開始する。
それまで開発者の机には、メールなどのオフィス作業用のパソコンと、設計開発業務に使うワークステーションの2台が置かれていた。移行後は、ワークステーションは机から撤去される。グリッド環境に集約された開発環境に机上のパソコンからリモートアクセスしてアプリケーションを起動し、設計作業を行うことができる。とはいえ、導入前は現場から不安の声があったという。
「『グリッド化して本当に今までどおりの効率的な作業ができるのか?』『リソース不足で、作業に支障が出る心配はないか?』といった不安があったようです」と、高橋氏は振り返る。
グリッド環境への移行は、4ビジネスユニットが開発を手がける製品にそれぞれ開発の繁忙期が異なることを考慮し、一気には行わず、各事業のビジネスのタイミングにあわせながら、時間をかけて順次移行していった。
こうした配慮もあり、グリッド環境への移行が進むにつれ、開発者からは賛同する声が増えていった。
個々のワークステーションで設計をしていた場合、そのワークステーションのリソースの限界を超えた作業することはできなかった。グリッド環境では、開発者の設計作業に必要なコンピューティング・リソースは適切に配分される。
「個々のワークステーションで設計開発の作業をする場合ですと、マシンの新旧など、部署により開発環境に格差ができてしまいますが、グリッド環境であれば、必要なときに必要なだけのコンピューティング・リソースが確保されます。やりたいときにリソースをきちんと使えること、設計作業中の画面を専有できることなどが評価されています。オフィス作業用のPCからアプリケーションを起動するという使用方法にも違和感はないようです。"マイ・マシン"にこだわりのあった人でも、マイ・マシンを超えたパフォーマンスを確保できるとあって、今では『いいね!』と言ってくれるようになりました」と、高橋氏は話す。
グリッド環境への移行は、開発者の利便性や生産性の向上にも貢献した。
管理作業やライセンス・コストなど全方位的なコスト削減を実現
以前の環境では利用頻度が低いアプリケーションは特定マシンにのみインストールしていたが、開発者から自分のマシンにもインストールしてほしいとの要望が頻繁にあったという。しかし、グリッド化以降は、必要なアプリケーションは必要なときには利用できる環境にあるため、今ではこうしたリクエストはなくなった。
開発者が必要なアプリケーションを利用できるようになったというと、ライセンス・コストが上昇したと思われるかもしれない。しかし、実際にはグリッド化によってコスト削減を実現している。
「設計開発用のアプリケーションを開発者のワークステーション個々に導入していた時には、4ビジネスユニット全てを対象に、それぞれの繁忙期に相応したピーク時の利用者数のアプリケーション・ライセンスを用意しなければなりませんでした。事業部間で繁忙期が異なる商品もあり、投資が重複するケースもありました。
またその一方では、ある事業部では利用者数に余裕があるにもかかわらず、他の事業部では予想外の繁忙によって、開発者がアプリケーションを利用するのにその実行ライセンス待ちという状態もあったかと思います。グリッド化によってライセンスを全体で共有できるようになったため、各ピーク数の総数ではなく、その時々の繁忙期でのピークを考慮して必要十分なアプリケーション・ライセンス数を用意すればよくなりました」(小林氏)
グリッド環境の導入前と後では、アプリケーション・ライセンス・コストを金額ベースで約20%削減できたという。
また、グリッド導入当初のねらいでもあったメンテナンス・コストについても、「開発マシン群の管理作業負荷は恐らく従来の5分の1程度で済んでいます。ただ、グリッドの環境維持に必要な作業がありますから、実際のところは従来の2分の1程度のコストに収まっているのではないでしょうか」(高橋氏)という。
メーカーにとっての生命線ともいえる商品の設計開発。そのITインフラに、コスト削減と生産性向上の双方で貢献しているグリッド環境。現在では、設計部門にとって、なくてはならないものとなっている。
また、様々な副次的効果も現れているようだ。
「机からワークステーションをなくしたことで、スペースが広くなったうえ、熱量やファンの騒音が減り、作業環境が快適になったという感想もよく耳にしました」(高橋氏)
国内で最初のSolaris 10 OSでのグリッド環境を2008年に構築
最初にSun Grid Engineを導入してから4年、2008年3月には国内で初めてSolaris 10 OSベースのSun Grid Engine 6.1へとバージョンアップし、グリッド環境へのシステム増設も行った。
「最初の導入から4年経って、利用するアプリケーションの多くがSolaris 10 OS対応のものが増えていました。アプリケーションのためにSolaris 10 OSを利用する必要がありました」(小林氏)
システムの中には一部 Solaris 8も稼動、Solaris 10 OSもSPARCサーバーとx64サーバー両方で稼動している。これは、「このシミュレーション作業は、CPUスペックの高いx64サーバーで、Solaris 10 OSで実行してほしい」といったリクエストがあるためだ。
Sun Grid Engineはヘテロ環境に対応しているので、ジョブの実行ノードとして様々なシステム環境(OS、アーキテクチャ)をサポートしており、こうしたリクエストに柔軟に応えるのにも適している。ほかにも、グリッド環境下のストレージについて一部、WindowsとUnix両方とでファイル共有するなど利便性向上に余念がない。
また一方で「ハードウェアの老朽化対策にもグリッドは向いている」と高橋氏は指摘する。
「グリッド環境下では、利用者が全く気が付かないうちにハードウェアの入れ替えが可能です。設計業務を休止する必要もありません。エンジニアリング企業には非常に大きなメリットです」(高橋氏)
また、同じ事業部に属していながら、事業所が地理的に離れていることが障壁となっていた技術情報の共有化も実現できた。「グリッド化によって集中管理を実現したため、開発者はインフラを気にする必要がなくなりました。
情報共有しやすい環境も構築でき、技術開発力を融合していく素地が整いました。今後さらに、製品開発に関連する技術情報を有効活用できるようにしたい」と高橋氏は考えている。
将来的には、「現在はグリッドを利用していないメカニカル設計や解析などの業務も、本来はグリッドに適しているのではないかと考えています」と小林氏。
国内初となるSolaris 10 OSとSun Grid Engine 6.1でのグリッド環境。当初の目的を達成し順調に稼動していることから、その適用範囲が拡大していくことになりそうだ。
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